ID:73144

陶芸の提案 2023 Ceramic Proposition

―REAL―

石井 美緒 石山 哲央 一色 智登世 川瀬 理央
木野 智史 下村 一真 田中 野穂 田中 悠 谷内 薫
西 崇 松森 洋駆 三島 寛也 森川 彩夏

会場

ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリー白kuro

Gallery HAKU

会期

2023年4月17日(月)ー4月29日(土)

展覧会概要

陶芸の提案 2023 トウゲイノテイアン 2023 ―REAL―

Ceramic Proposition

「REAL」
奥村 泰彦

「ヨシトモ君がこの前「よし子先生 リアルってなんですか?」って言ったらさ
よし子先生答えらんなくて 泣いちゃって」*

リアルは難物だ。世界はリアルなものとしてたち現れているにもかかわらず、あるいは「世界」と発語した瞬間に、リアルなものの存在が前提となるにもかかわらず、リアルという言葉の前に人はおたおたする。なぜか。リアルという言葉の意味は理解していても、何がリアルかと問われると、リアルであることのリアリティーを揺らぎなくとらえることが難しいからではないか。
リアルとは、まずなにものかが実際に存在しているということであるわけだが、このなにものかがいかなるものであるのか、そして存在するというのはどういうことであるのかという2つの変数が掛け合わされただけで、事態は複雑怪奇の様相を呈することになり、更に実際のところ(って英語だとin realityという表現があったりするのだが)現実に存在する対象をリアルなものと感じられないといった事態も生じる。現実を現実と受け止められないというのは、場合によっては病的な精神の状態ともとらえられかないのだが、ことと次第によっては社会全体がそのような様相を呈することもままあって、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行を背景とした世の中のありようもまた、そのようなものなのではないかと言って的外れではないだろう。
少なくともこの3年程は、それまでと同じ活動を続けることに誰もが困難を感じざるを得ず、感染症の流行だけでも大変な上に、超大国が戦争を始めたり、ものの値段が高騰したりと社会的にややこしいことがややこしさを増すばかりである。これは現実なのか、こんなことになる前の現実はどんなだったかもしっかりと思い出せないようになってきたり、こうではなかったはずだという思いがリアルなものをリアリティーをもって眺められない状態に人を落とし込みかねないのが昨今の状況であるとも言えるだろう。
それに輪をかけるのが電子通信による情報の流通が充実したことによる、異なる形態の現実の登場である。仮想現実(ヴァーチャルリアリティ)と呼ばれるそれは、あくまでも現実を情報として仮構するものと一般には考えられているが、恐らく電子情報はそれ自体が一つのリアリティを持った、別の現実として成立している。リアリティの構築という点において、本来的に別のなにものかを模すのではない陶芸による作品制作と、仮想現実の構築と流通は、異なるものではありながら、それぞれがリアルなものとして並立するだろう。
とは言いながら、それぞれの作家が自身のリアリティをリアルなものとして存在させる一個の作品という実体は、情報に置き換えることのできない質を備えたものに違いない。置き換えのきかない、そのものでしかないものとして現実化(realize)された作品をリアルなものとして認識(realize)する場としての展覧会もまた、いかに精緻なものとなったとしても、電子情報によって置き換えられるものではないだろう。
この「陶芸の提案」展は、陶芸を表現手段として選んだ比較的若手の作家によるグループ展として2009年に始まっている。メンバーは年ごとに変わるのだが、続けて出品してくれている作家もおり、若手から中堅へと安定した作風を展開する何名かを核に、新たに加わる作家が別の表現の方向を広げてくれるような構成となってきた。
感染症による停滞は、若い作家にとってはことさら困難なものであることは想像に難くない。制作することも発表することも、従来と同じ方法では難しくなり、それは表現を追求し作風を展開させる困難へと直結するだろう。
このような大規模な断絶は、かつてなかったものであるかというと、残念ながらそういうわけでもない。太平洋戦争の時期、およそ1930年頃から終戦の1945年までのほぼ15年にわたって、20世紀初頭に始まった一連の前衛的、実験的な表現は抑圧された。戦前に活動を始めていた世代は自由な創作を行えず、若い世代は新しい表現に触れることができないまま青年期を迎えることになったのである。戦中を過ごした芸術家の中には、自由な創作ができない中にあっても、自身の創作の核のようなものを守り続け、戦後になって新たな表現に挑んだ者も少なくない。また、若い世代はようやく戦前の表現を学び、自身の創作を開拓することに取り組んだのである。戦前から戦中の15年と、コロナ禍の3年では期間も状況も大きく異なりはするものの、多くの芸術家にとって断絶の時期があったことは、現在とこれからを生きる者に一つの指針を与えてくれるものではないだろうか。
今を生きる芸術家にとって、現在の創作のリアリティの追求が第一であろうが、過去の芸術家たちの体験した断絶の経験に学ぶことは、現在のリアリティを未来につなげていくための指針となるのではないだろうか。
そして、断絶が解消された時に現れる光景は、以前からの継続である以上に未知なるものであるかもしれない。むしろ若い作家たちには、未知の光景を生み出すことを期待したいのだ。
(おくむらやすひこ・和歌山県立近代美術館主幹)

*岡崎京子「でっかい恋のメロディ」『I wanna be your dog わたしは貴兄のオモチャなの』祥伝社、1995、p.24

休催日
日曜日休廊
開催時間
11:00a.m. ~ 7:00p.m.
(土曜日5:00p.m.迄)

イベント情報

4月17日(月)6:00p.m.より奥村泰彦氏+出品作家によるギャラリートークを開催致します。

会場情報

ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリー白kuro ギャラリーハク

Gallery HAKU

会場住所
〒530-0047
大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F
ホームページ
http://galleryhaku.com/
問い合わせ先
06-6363-0493 art@galleryhaku.com
更新日:2023年4月5日
登録日:2023年4月5日