ID:71841
柴田知佳子展 SHIBATA CHIKAKO Exhibition
会場
ギャラリー白kuro
会期
2022年10月3日(月)~10月15日(土)
展覧会概要
柴田知佳子展 シバタチカコテン
SHIBATA CHIKAKO Exhibition
柴田知佳子の〈Be〉ー場における絵画の存在をめぐって
大島徹也
ギャラリー白kuroでの柴田知佳子の二回目の個展である。
2014年から柴田は、古いアパートの一室(2015年)や廃墟となった旅館の大浴場(2016年)、またこの全面黒塗りのkuro(2017年)といった、特定活特殊な空間のために絵画を制作し、それをそこに展示してきた。柴田は、自分に与えられたそのような「場」の「記憶や佇まいの体験」にインスピレーションを得、そうして描いた絵画が、その「特定の場所に寄り添うこと、存在すること」1を大切にしていた。
しかしながら私には、それに関してひとつの疑問があった。サイト・スペシフィシティ(作品の存立が、それが設置される特定の場と物理的に深く結びついている性質)の強いそのような柴田の絵画作品は、最初に意図していた場所でのテンポラリー(一時的)な展示が終わったあと、その意味や価値はどうなるのか?その絵画はその場から切り離され、柴田のもとに戻されて保管されることになり、その後、別の場所で新たに展示されることになるものも出てくるだろうに。
それについて柴田はたとえば、「展示される場所が変わることによって作品の印象がどのように変わるかという問題は、私にとって作品の主題の一つでもあります」2、と述べている。しかし、少し意地の悪い言い方をすれば、同一の作品でも展示される場所が変われば印象が変わるのは、多かれ少なかれ誰のどの作品についても同じことである。また、いわゆる「ホワイトキューブ」内ですら、壁のホワイトの色味や照明の色温度、床材などの違いによって、さらには、私の個人的感覚で言わせてもらえれば、その展示空間の歴史やそれが所在する土地の風土などの違いによって、印象は変わりうる。正直なところ、私が柴田の絵画にいっそうの関心を持つためには、もう少し別の美学が彼女の仕事にあってほしいと、私は思っていた。
柴田の絵画の新たな可能性は、2018年の《Dolce Vita》という作品についての、「『場』を作品の中に作り出すこと」3という柴田のコメントに胚胎していたように思われる。そして、今年に入って柴田は、その新たな問題をいっそう強く意識することになったはずである。というのは、本展にメイン作品として出品される《Be-Ⅱ》と《Be-Ⅲ》は、これまでのように、kuroという特定の空間のために制作が開始されたが、その途中で、宇フォーラム美術館(東京)でのグループ展に先に出品することに決まったからである。その時しばたは、《Be-Ⅱ》と《Be-Ⅲ》を特定的にkuroという場のために描くことは止めた(あるいは、美学上、止めざるをえなくなった)。そして、完成したその二点は今年7月に、宇フォーラム美術館のホワイトキューブ的な展示室(壁の色は、正確には薄いグレー)で先行展示されたのだった。この実情に対して私は、ネガティヴに思っているのではなく、まったく逆に、それは柴田の仕事のさらなる発展のための確かな契機となっただろうと、非常にポジティヴに考えている。
近年柴田は、〈場〉と〈絵画〉の関係性への関心という点では引き続き一貫しながらも、〈絵画〉が〈場〉に寄り添うことよりは、「場における作品の存在感それ自体」4の方に関心を移してきている(上記の宇フォーラム美術館での《Be-Ⅱ》と《Be-Ⅲ》の展示は、その移行におけるひとつの重要な場面/段階であった)。「『場』を作品の中に作り出すこと」という意識をいま現在の柴田がどれくらい強く持っているのかは、あえて本人に確認してはいないので分からないが、いずれにせよ《Be-Ⅱ》と《Be-Ⅲ》を実見して私が感じたのは、柴田知佳子という画家の手に成るその〈絵画〉は、その中に〈場〉が作り出されているというよりはむしろ、展示空間という〈場〉の中に在ってそれ自体が〈もうひとつの場〉ーセザンヌをもじって言い直すならば、〈場〉と平行した〈もうひとつの場〉ーとなっているのではないかということである。
〈もうひとつの場〉としての生命を持ちえた柴田の絵画は、「展示される場所が変わることによって作品の印象がどのように変わるかという問題」を超えて、それが展示される〈場〉と絶妙な調和を見せ観者を魅了することもあれば、別の機会には、〈場〉の中に在ってそれと拮抗する堂々たる存在感を放ち、観者をそこに厳粛に立ち会わせることもあるだろう。あるいは、〈場〉と柴田の絵画が強烈なエネルギーを発し合い、その中に観者を呑み込んでいくかもしれない。あるいはまた別の機会には、両者は不協和音を奏で、観者を違和感で包むかもしれないが、それもまた〈もうひとつの場〉たる柴田の絵画の鑑賞としては、非常に面白い経験となるのではないか。
さて、今回の展示では、ギャラリー白kuroという壁、床、天井すべてが黒一色で塗られた独特の場と、柴田の《Be-Ⅱ》《Be-Ⅲ》やさらなる新作の絵画が、どのような響き合いを見せてくれるだろうか。
〈おおしま・てつや 多摩美術大学准教授〉
1 「大阪御堂筋アート2017」での柴田のステートメント。
2 「宝塚現代美術てん・てん2017」での柴田のステートメント。
3 柴田知佳子『SHIBATA CHIKAKO WORKS 2015-2019』柴田知佳子発行、2020年、頁付なし。
4 本展のための柴田のステートメント。
- 休催日
- 日曜休廊
- 開催時間
- 11:00 ~ 19:00
- (土曜日11:00ー16:00)
会場情報
ギャラリー白kuro ギャラリーハク クロ
- 会場住所
-
〒530-0047
大阪市北区西天満4-3-3 大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル1F - ホームページ
- http://galleryhaku.com/
登録日:2022年10月5日