ID:57188
かのうたかお展 Takao Kano
会場
ギャラリー白kuro
会期
2018年3月19日(月)-3月31日(土)
展覧会概要
かのうたかお展 カノウタカオテン
Takao Kano
彼方の記憶/此方の造形
マルテル坂本牧子
地質学では、砂は「直径2mmから0.0625mmの堆積粒子」と定義され、その多くは岩石が風化して壊れた「かけら」で出来ているという。つまり、その小さな粒子の一つ一つには長い年月の記憶がすでに蓄積されているのである。そして、かのうたかおが、砂のイメージを表現するために用いているのが、「シャモット」という素材である。原料となっているのは、焼成した耐火粘土のかけら、つまり、粉砕して粉々になった陶磁器で、焼成しても固まることはない。砂と同様、かたちとして留まることがなく、移ろい、脆く、崩れやすいものだ。よって、釜の中で釉薬化して熔着し、その痕跡をかたちに留めているのは、シャモットに混ぜ込んだ長石の粉末である。約1250℃の高温焼成にも長時間耐え、まるで地中から掘り出された古代の遺物のように、シャモットの中から悠然と現れる造形物こそ、かのうがこの16年余り制作し続けている砂の作品である。固まる部分と、固まらない部分から成るユニークな造形は、焼成後、固まらない部分を削り落とすという行為によって完成するが、どこまで崩れ、どこまで残るのか。その鬩ぎ合いは奇妙にリアルで、見ているうちに時間と空間の軸が少しずつズレていくような、じつに不思議な存在感を放つものとなる。
聞けば、その原点は、青年海外協力隊員として2年半を過ごした西アフリカのニジェール共和国で見た砂漠の風景にあるという。壮大なスケールで眼前に広がり、風に吹かれて刻々と変化していく砂の風紋のダイナミズム。その神秘的な光景に圧倒された。さらに、ニジェールで作られていた素朴なやきものの持つ大らかさや逞しさにも原初のエネルギーを感じ取った。若き日のアフリカでの実体験が、かのうを表面的なかたちや技巧から解放したのだろう。それは、やがて既成のやきものの価値観に対する密やかなアンチテーゼとして、かのうの制作の根幹を成していく。それが顕著に現れたのが、2010年頃から展開している《天アリ》シリーズであろう。誰もが知る古陶磁の名品や弥生土器の壺などのかたちを借り、その内側に広がる砂の景色をクローズアップした、かのうの核心に迫る作品である。今、見ているものは何なのか。その遥か彼方にある記憶を呼び覚ますものとは何なのか。そもそも一体、やきものに何を求めるのか。
砂の作品と並行して、強く興味を惹かれるという古墳時代の埴輪や直弧文から着想を得た陶土による立体作品も本格的に手掛け、近年、ますます原初的な造形の向きを強めている。ざっくりとした土肌に白い化粧土と透明釉を重ね、謎めいた直弧文が施されたり、孔を空けたり、いかにも古代の呪術的な道具といった風情であるが、その「かたちの中に存在するであろう向こう側」を内に秘め、見る者に謎かけを試みる。そこに焙り出されるのは、美術と工芸の間隙を鋭く突く、反骨のやきものの造形である。
Makiko Sakamoto-Martel(兵庫陶芸美術館学芸員)
- 休催日
- 日曜休廊
- 開催時間
- 11:00 ~ 19:00
- (土曜11:00-16:00)
会場情報
ギャラリー白kuro ギャラリーハク クロ
- 会場住所
-
〒530-0047
大阪市北区西天満4-3-3 大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル1F - ホームページ
- http://galleryhaku.com/
登録日:2018年3月27日