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Painterliness (ペインタリネス) 2016 Painterliness 2016
石川裕敏 圓城寺繁誉 河合美和 岸本吉弘 善住芳枝 中島一平 渡辺信明
【テキスト 尾崎信一郎】
会場
ギャラリー白 ギャラリー白3
Gallery HAKU
会期
2016年8月29日(月)―9月10日(土)
展覧会概要
Painterliness (ペインタリネス) 2016 Painterliness (ペインタリネス) 2016
Painterliness 2016
ペインタリネス、名状しがたきもの
尾崎信一郎
「ペインタリネス」も今回で18回目を迎える。若干の作家の入れ替わりはあるにせよ、いつもどおり、中堅作家による手堅い抽象絵画の集団展である。繰り返し論じてきた点であるが、このような展示は今日ほかに見当たらない。現代美術の中で絵画が苦境に置かれていることは常に指摘されてきた。それにもかかわらずこれほどの長きにわたってこの展覧会が続けられてきたことは、ギャラリー白のオーナーであった鳥山健とその遺志を継いだ吉澤敬子、出品を重ねてきた延べ30名ほどの作家たち、そして私をはじめとする何人かの批評家がこの集団展を継続することに積極的な意義を見出してきたことを反映している。
今、「中堅作家」による「抽象絵画」の展示と述べた。これらの言葉に少し拘泥してみよう。具体的な年齢には触れないが、私が同時代の絵画についての専門的な批評を始めて以来、およそ30年が経過した。ここに出品している作家たちは世代的に私と大きく変わらない。つまり彼らもデヴュー以来、ほぼ同じ時間を費やして絵画について思考し、作品を制作してきたはずだ。そして私たちはこの展覧会に出品されるペインタリーな抽象絵画こそ、なおも私たちが求めるべき表現であるという確信を抱いている。なるほど私たちの確信はやや時代遅れかもしれない。「クール・ジャパン」が喧伝され、隆盛する多くの「エンナーレ」で映像やら「リレーショナル・アート」が注目される今日、相も変わらず「抽象絵画」の旗の下に集う私たちの企画は時流とは無関係に感じられよう。
私たちが掲げる絵画は決してわかりやすいものではない。これらの絵画からは基本的に具体的なイメージや物語性が排除されており、絵画は直ちに意味と結びつくことはない。「ペインタリネス」が美術史家ヴェルフリンの二分法、ペインタリー/リニアに由来することは何度か論じたが、リニアな絵画、線描的な表現が多くの場合、明瞭さと完結性を結びつくのに対してペインタリーな絵画は常に一種の晦渋さを秘めている。「ペインタリネス」は名状しがたき絵画であることをその本分とする。「クール・ジャパン」の尖兵とも呼ぶべき「アニメ」が常に線的なイメージとわかりやすいナラティヴを同伴している点と比較するならば、「ペインタリネス」とは「クール・ジャパン」からの逸脱であり、批判である。私たちはわかりやすさを必要と感じない。なぜか。私たちは視覚を通して受容される経験、絵画という形式として実現される物体、両者が高度なレヴェルで結びついた表現を求めている。視覚と物体、それらはいずれも本来的に言語に抗い、言語を無効化する機縁であるからだ。もっとも言語と親和する視覚、言語と親和する物体はありうる。それは具象絵画であり、商品としての物体である。したがって私たちが掲げる絵画は具象的な表現ではなく、商品でもないという二重否定として事挙げることが可能かもしれない。確かにこれまで「ペインタリネス」に出品された作品は多くかかる二重否定の実践であった。この時、軽薄さと商業主義に毒された今日の美術界において「ペインタリネス」が一種の異端である理由も明らかであろう。
小田中康浩に代わり圓城寺繁誉が出品したことを除いて、今年の「ペインタリネス」には昨年と同じメンバーが出品している。この展覧会はゆるやかに出品作家を違えながら8名程度の出品者で展示を構成してきたから、今回の展示に特段に新しい要素が加わることはないだろう。しかしこれはそれぞれの作家において新しい展開がなかったことを意味しない。それどころか、この一年に私が実見した範囲でも石川裕敏と渡辺信明の新作の発表は二人の新しい境地を示すものであり、私は大きな感銘を受けた。出品作家たちの意欲的な発表を見逃した機会も多かったから、このようなブレークスルーはほかにもあったかもしれず、今回の展示を通して出会うことができるかもしれない。最初に述べたとおり、私たちは既に30年ほどの時間をかけて絵画を描き、絵画について考え続けてきた。これほどの時間をかけて絵画に関わりながら、なおも大きな飛躍があることに私は驚く。まことに絵画という営みの奥深さを感じさせる事実ではないか。
二年前のパンフレットにも記したとおり、私たちにとって、絵画を制作すること、絵画について語ることは倫理的な実践である。先日、私は兵庫県立美術館で「1945年±5年」という興味深い展覧会を見た。日中戦争から太平洋戦争にいたる戦時下にあって画家たちがいかに時局に応じたかを検証する内容であり、体制に翼賛する画家と抵抗する画家、超然とした態度をとる画家、自分であればどのような態度をとっていたか、考えさせられる内容であった。先般の参議院選挙の結果、私たちは新しい戦時体制に組み込まれた。まもなく日本国憲法が停止され、戦争が始まるだろう。近年、いくつかの美術館で警察による検閲や館の上層部による自己規制が報告されたことはその前兆だ。私たちにとって可能な抵抗は名状しがたき作品を制作することであり、名状しがたき作品に言葉を与えることではないか。再度記す。「ペインタリネス」とは抵抗である。
(おさき・しんいちろう 鳥取県立博物館副館長)
- 休催日
- 日曜日
- 開催時間
- 11:00 a.m. ~ 7:00 p.m.
- 土曜日 5:00p.m. まで
イベント情報
|| 初日(29日) 6:00p.m.より 尾崎信一郎氏と出品作家によるギャラリートークを行います。是非ご参加下さい。
会場情報
ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリーハク
Gallery HAKU
- 会場住所
-
〒530-0047
大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F - ホームページ
- http://galleryhaku.com/
- 問い合わせ先
- 06-6363-0493 art@galleryhaku.com
登録日:2016年8月30日