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Painterliness (ペインタリネス) 2015 Painterliness 2015
石川裕敏 小田中康浩 河合美和 岸本吉弘 善住芳枝 中島一平 渡辺信明
【テキスト 尾崎信一郎】
会場
ギャラリー白 ギャラリー白3
Gallery HAKU
会期
2015年8月31日(月)―9月12日(土)
展覧会概要
Painterliness (ペインタリネス) 2015 Painterliness (ペインタリネス) 2015
Painterliness 2015
抵抗としての「ペインタリネス」
尾崎信一郎
17回目の「ペインタリネス」をお届けする。この展覧会は1995年に初回が開催され、今年で20年目を迎える。節目の年にあたることもあり、最初にこれまでの歴史を少し振り返ってみるならば、最初の展覧会には善住芳枝、館勝生、田中美和、細井まさひろ、山部泰司、渡辺信明の5名の作家が参加し、テクストは長谷川敬子氏が執筆している。それ以後、「ペインタリネス」は多い時で14名(会期が二期に分かれた2001年の「ペインタリネスⅤ」)、少ない時で5名の画家の作品を展示するグループ展としてほぼ毎年続けられてきた。長谷川氏のほか、那賀裕子+貞彦氏、平井章一氏がパンフレットにテクストを寄せている。初回の出品者のうち、善住芳枝、田中(河合)美和、渡辺信明の三名が今回の展示にも出品していることからも理解されるとおり、20年に及ぶ展覧会でありながら出品者は延べにして30名余りで、核になる数名の作家を中心にさほど多くない作家を加えることによって構成されてきた。ちなみに今回の出品者以外に「ペインタリネス」に五回以上出品した作家としては佐藤有紀、渡邉野子、大城国夫、大杉剛司らがいる。
今述べたとおり、この展覧会は断続的に企画されたが、2008年以降は毎年開催されて今日にいたる。この数年、出品作家も固定されている。2012年の「ペインタリネス2012」には6名の作家が出品しているが、この6名に岸本吉弘を加えた7名が「ペインタリネス2013」、「ペインタリネス2014」、そして今回の展示に共通しており、顔ぶれは変わっていない。さらに言うならば2006年以後、テクストは一貫して私が執筆してきた。ギャラリー白は2002年に現在の場所に移っているが、移転の前からギャラリーの企画として続けられているグループ展は「ペインタリネス」だけであるという。出品作家、そしてテクスト執筆者はギャラリーが選んでいるから、ここに集められたような傾向の作家に出品を依頼し、彼らと親交の深い私にテクストを委ねてきたことにはギャラリーの強い思いが感じられる。それは今は亡きギャラリー白のオーナー鳥山健の遺志であり、鳥山亡き後、このギャラリーを継いだ吉澤敬子の意志であろう。
少し私的な回想を記す。私が初めてギャラリーが発行するパンフレットにテクストを寄せたのは1986年、かつてのギャラリー白で開かれた「ペインティングの新人たち」というグループ展であった。当時私はまだ大学院の学生であり、展覧会のタイトルが示すとおり、出品作家も大学もしくは大学院在学中の若い画家ばかりであった。その中に館勝生と渡辺信明の名がある。鳥山は若い作家や批評家と語らうことを好んだ。鳥山はジャンルを問わず多様な才能を関西の美術界に送り出したが、特に好んだのは絵画であり、さらに言えばペインタリーなオイル・ペインティングであったように思う。この点は「ペインタリネス」の作家のラインナップに明らかだ。この展覧会に出品する画家たちは鳥山のお気に入りであり、鳥山はギャラリー白で個展やグループ展を開いた作家の中から、好みの作家を選んでは「ペインタリネス」に誘ったのではなかっただろうか。一方、当時私も毎週ギャラリーに通って作家たちと語らいながら、アメリカの抽象表現主義絵画の研究を重ねていたから、同じ世代の若い画家たちが目指すところを漠然と理解することができた。当時、滋賀県立近代美術館ではモーリス・ルイスの日本で最初の回顧展や戦後アメリカ美術を総括する展覧会が次々に開催されていた。一方、私たちより少し年長の世代は兵庫県立近代美術館の「アート・ナウ」でジャンルを超えた画期的な表現を繰り広げていた。バブルの余波とはいえ、現代美術をめぐって関西の美術界に熱気があふれていた時代であった。
それから四半世紀、私たちはひたすら悪くなる時代の只中にいる。私たちにとって最も無念な出来事は「ペインタリネス」にとってかけがえのない二人、館勝生と鳥山健を失ったことである。優れた画家であり、最初の「ペインタリネス」への出品者であった館。この展覧会を企画し、若い画家たちに発表の場を与え続けた鳥山。おそらくこれからも私たちは二人の不在を意識せずに「ペインタリネス」に向かい合うことはできない。美術館であろうとギャラリーであろうと20年の長きにわたって一つの企画を続け、しかもさほど顔ぶれの変わらない画家たちが毎回緊張感のある作品で応えるという事態は通常ではありえない。かかる奇跡が可能となった理由は、私たちが絶えず二人の死者、館と鳥山を思いつつ作品を制作し、テクストを執筆してきたことに負っているだろう。
「震災と原子力災害の後、復興の糸口さえも展望できないまま、なんら正義のないオリンピックに向かって現在の政権は死に物狂いで国家的な体制再編を進めている。彼らが文化にどのような役割を求めているかは明らかであろう。私たちにはアヴァンギャルドの速やかな再構築が求められている」これは私が昨年の「ペインタリネス」のパンフレットに寄せた一文である。今や状況はさらに悪化している。私がこの文章を書いているのは7月10日であるが、このパンフレットが届く頃には日本が完全な戦時体制下として統制されている可能性がある。思うに、私たちは死者を意識することによってしか自らの倫理を確立しえない。おびただしい戦死者の無念さを代償に築かれた規範が愚かな政権によってうち捨てられようとしている現在、私たちもまた二人の死者を思いつつ、自らの務めを誠実に果たすことをせめてもの抵抗としようではないか。繰り返す。今やペインタリネスとは美学ではなく、倫理的な要請なのだ。
(おさき・しんいちろう 鳥取県立博物館副館長)
- 休催日
- 日曜日
- 開催時間
- 11:00a.m. ~ 7:00p.m.
- 土曜日 5:00p.m. まで
イベント情報
初日(31日) 6:00p.m.より 尾崎信一郎氏と出品作家によるギャラリートークを行います。是非ご参加下さい。
会場情報
ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリーハク
Gallery HAKU
- 会場住所
-
〒530-0047
大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F - ホームページ
- http://galleryhaku.com/
- 問い合わせ先
- 06-6363-0493 art@galleryhaku.com
登録日:2015年9月8日