「模様より模様を造らず」、すなわち、先人のどんなにすばらしい模様や造形も一切捨て去り、自分が創作したもののみを用いることを終生の信条に、近代陶芸の確立に生涯をささげた巨星富本憲吉の生誕120年を記念して、「富本憲吉-色絵・金銀彩の世界-」を開催いたします。
富本憲吉は1886(明治19)年6月5日、戦国時代からの家系を誇る奈良県生駒郡安堵村(現、安堵町)の旧家の長男として誕生しました。郡山中学(現、郡山高校)を経て、東京美術学校(現、東京芸術大学)に学んだのちイギリスに留学、多くの感化を受けて帰国し、友人バーナード・リーチに触発され独学で陶芸家としての道を歩むようになります。
以来、大正・昭和の50年間を通じて、天賦の豊かな感性と激しい情熱で次々と新たな領域を開拓し、その卓越した業績によって1955(昭和30)年に第1回の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、1961年には文化勲章を受章しました。
富本の陶芸活動は、その制作地によってよく奈良(大和)・東京・京都の三時代に区分されます。しかし、技術的な展開からみて、初期の楽焼から白磁・染付を主体とした1935(昭和10)年までの前半期と、1936年久谷に赴いて本格的に色絵に取り組み、さらに金銀彩へと進む後半期に大別することもできます。
生誕120年を記念する本展は、華麗で格調高い富本芸術を完成し、重要無形文化財保持者認定の理由ともなった後半期の色絵と金銀彩に焦点を当て、都合125点の作品を通して改めてこの巨星を回顧するものです。