和田義彦は、1940年三重県に生まれ、1959年東京藝術大学油画科に進み、牛島憲之・山口薫・伊藤廉らに指導を受けた。1964年に初の個展を開催し、翌年に国画会で初入選、画家として歩み始める。1970年に国画会会員に推挙、翌年からイタリア政府給費留学生としてローマに滞在、ローマ美術学校などに学んだ。その間スペインにも滞在、模写や修復技術を習得するなどして美術研究を重ね、1977年に帰国した。
神官を父に持つ和田は神社の深い森で過ごした少年時代の生活をおくりながらも、ヨーロッパの伝統的な美術に強く惹かれ、しばしばパリも訪れ西洋近代絵画にも親しんだ。そうした体験の中で接したヨーロッパの人々や風景をモティーフに独創性あふれる作品を生み出している。
それらの作品は、伝統絵画研究を通して得られた高度な絵画技術と的確なデッサン力によって支えられ、現代に生きる孤独な人間の実存と内面に迫る絵画表現によって、きわめて独自な世界を提示する。
街やカフェにたむろする男女、日常の中に潜む空虚な感覚、作者の記憶の画像によって呼び出される犬のモティーフや不可思議な庭園、奇妙に展開する食事の光景など、特に都会に生きる人間の不条理や不安や欲望に満ちた現代が、和田作品の重要なテーマとなっている。
和田義彦は、2002年に安田火災東郷青児美術館大賞を受賞し、本年も「両洋の目」展で河北倫明賞を受賞するなど、近年の美術界において高い評価を得ているが、本展では、初期から今日に至る代表作のほか、ドローイングや模写作品なども併せて展観し、具象画家の最前線で旺盛な活動を続ける氏の画業を紹介する。