いけばな作家中川幸夫(1918-)は、香川県丸亀市に生まれ、祖父、伯母がともにいけばなの指導を行なう立場であったことから、幼少時より花に親しみ育ちました。やがていけばなの世界に身を投じるようになりましたが、当初よりその作品や活動は従来の伝統的ないけばなの枠に留まることがなく、1951年には流派を脱退、以後独立したいけばな作家として活動を続けています。
生きた植物を素材とするいけばなは、時間が限られたものであるため、中川は写真に撮ることで、新たな生命を与えてきました。中川の花はいけばな界にあっては長く異端視されてきましたが、花の生を凝視し、一切の妥協を許さず、その姿をするどく映し出した作品は、華道や美術という表現領域の境界を超越した現代芸術として国内外で多くの支持を得ています。また、花器という概念を超えた、それ自体が花のかたちだというガラス作品や奔放に筆を揮った「書」も独自の精神世界を追求した表現として高く評価されています。その独創的な「花」や「器(オブジェ)」、「書」、そのひとつひとつが中川の求めるいけばなのこころ-“いのちのかたち”なのだといえましょう。
展覧会では、花人-いけばな作家-中川幸夫自身が撮影したオリジナル写真プリント作品を中心として、中川の手になるガラス作品、書によって孤高の表現者が創造してきた造形世界をご紹介します。