いけばな作家中川幸夫(1918-)は、流派に属さず独自の「花」を発表してきました。その作品は、伝統や様式にとらわれない革新的なもので、近年では華道や美術の協会を超越した芸術表現として内外で多くの支持を得ています。
生の植物を素材とするいけばなは、作品が存在する時間が極めて限られたものであり、中川は自らカメラを据えて写真を撮影することによって作品の命を留めてきました。土門拳に薫陶をうけたという中川の写真は、単なる自己の「花」の仕事の記録にとどまらず、今日的な静物写真表現としても傑出したものです。
また、花器という概念を超えたガラス作品や、奔放に筆を揮った「書」も独自の精神世界を追及した表現として高く評価されています。その自由で独創的な「花」や「器」「オブジェ」「書」が一体となって生み出される空間こそが、中川の求めるいけばなのこころ―“いのちのかたち”なのだといえましょう。
この展覧会では、花人―いけばな作家―中川幸夫自信が撮影したオリジナル写真プリント約80点を中心として、中川の手になるガラス作品や書によって孤高の表現者が創造してきた世界を紹介します。