神奈川県立近代美術館では、1988年から「今日の作家」として、現在活躍している二人の作家による展覧会を行ってきましたが、今回はその第10回目となります。
西村盛雄(1960~)は、1993年にドイツに渡ってデュッセルドルフ美術アカデミーで学び、その後もドイツにとどまって制作活動を続けています。「蓮」をもっとも重要なモティーフにしてその制作の核におき、自然のエネルギーひゃ時間の蓄積を感じながら、さまざまな形態の蓮の葉を生み出しています。蓮から導き出される仏教的なイメージをも包み込み、さまざまな文化を超え、繊細であると同時に力強くもあります。蓮の葉をかたどった木彫「甘露の雨」ほか、同じく蓮をテーマに、蓮の葉を紙の層のなかに塗りこめた作品。さらにガラスを用いた立体作品など約20点を展示予定。今回の展覧会が日本で初めてまとまったかたちでの作品発表となります。
松本陽子(1936~)は、60年代初頭のデビュー以来、一貫して抽象絵画の可能性を、果敢に、そして徹底して追求してきました。紫やピンクの茫漠とした色面が重層する独特な画面は、わたしたちを、光に満ち溢れた生成と解体の世界へと誘います。その色彩は物質性から開放され、純粋に視覚的な要素として画面を構成し、拭き取られた色面は、明確なかたちえおとることなく相互に重ねられ、類例のない透明感と拡がりを漂わせています。松本の絵画は、純粋に抽象的な画面であるにもかかわらず、「水」や「風」や「樹木」や「空気」といった、わたしたちの身の回りの風景をも想い起こさせます。しかしそれらは、光を反射すると同時に吸収し、光も影も嘘も実も、あらゆる要素を混沌のうちに包摂してしまう、ある種の母性を備えた絵画であるといえるでしょう。90年代初頭から未発表最新作<緑色の絵画>シリーズまでの絵画作品とドローイング、約35点を展示します。
本展覧会では、それぞれ異なる二人の作家の作品による対話をご覧いただければと考えております。