今回の展覧会では、植田正治が1980-90年代に撮影した景色と静物の作品を中心に展示します。
かつて、砂浜や砂丘という自らが設定した空間を舞台に、演出写真を手がけてきた植田が、晩年に自室のアトリエで試みた静物写真は、漆黒の小宇宙を思わせるような空間を背景に不思議な世界を描き出しています。演出された美しいオブジェたちは、見るものを物語のなかに誘い入れるかのように、暗闇の中に忽然と浮かび上がります。
空想の世界に遊ぶ植田のまなざしは、そのまま戸外にも向けられ、現実の風景にも重ねられています。日常の風景を背景に繰り出されるイメージは、見慣れた風景さえも、どこか作りものめいた新しい景色として画面の中にたちあがっているかのようです。
植田の尽きることのない好奇心と、純粋な遊び心によって創出された晩年の作品群をご覧いただくことで、そのイメージの広がりを感じとっていただけるでしょう。