このたび当館では、群馬県が生んだテキスタイル・クリエイター、新井淳一の特別展示を開催します。
新井淳一は1932年群馬県桐生市の織物を家業とする家に生まれ、桐生高校を卒業後、家業に従事し、布づくりの道を進みます。早くから、細く裁断したプラスチックフィルムから成る、スリットヤーンと呼ばれる技法の布の研究を進め、表面に蒸着した金属を溶かすことによって、反射と透明の二面性を併せ持つ布を生み出し、1970年以降には、山本寛斎や三宅一生、川久保玲らファッションデザイナー達との出会いから、天然繊維の布やコンピューターによる特殊紋織の布などを手がけて提供し、一躍世界から注目されるテキスタイル作家となりました。その功績に1987年、英国王室芸術協会から王室名誉産業デザイナーの称号を授与されています。90年代からは世界各地で作品展示を行い、講演や講師をつとめる一方、スリットヤーンの布に取り組み、その性質や機能において試行錯誤を続ける中で、群馬県繊維工業試験場と企業の共同開発を実現させ、昨年の2004年末、燃えやすいという難点を克服した難燃性フィルム金銀糸が正式発表されました。また本年3月から開催される愛知万博のために、空港エントランス用のタペストリーも手がけるなど、70歳を超えた現在も、布の新しい可能性と芸術性の探求に精力的な活動を展開しています。
本展は、当館の展示室の中でも、天井高10mを超す広大な展示室5に、新井淳一の近年制作された作品を中心に構成するインスタレーションです。なかでも、発表されたばかりの難燃性金銀糸による布は、繊維業界の関心も高く、見どころのひとつに挙げられます。
これらの布が金銀の光沢を放ち、光を透し、見方によって様々に姿を変化させる様は、私たちが普段抱いている布の概念を大きく覆し、世界に認められた最新の技術と芸術性に触れる機会を与えてくれることでしょう。