植田正治は、生涯山陰で写真を撮り続けてきました。毎日のようにカメラを持って外に出かけ、被写体との対話を大切にしながら、「写真すること」の喜びを胸いっぱいにかみしめ撮影していたのです。いつもの見慣れた風景は、四季の移ろいや天候によって様々な変化を見せます。それらの光景はいつも新鮮で、小さな発見があり、植田の創作意欲、遊び心は無限の広がりを見せるのです。
「風景の風は、吹き抜ける風」、植田は風景をこのように語っています。植田の被写体となる風景は、なにげない見慣れた景色ばかりですが、植田によって切り取られるそのイメージは植田独特の世界を描き出しています。つまり「吹き抜ける風」とは、様々な表情をみせる身近な風景が、写真家にシャッターを切らせる動機づけを意味するのでしょうか。人を被写体とした作品同様、風景写真も、ひとつひとつの出会いを大切にした植田にとっての一期一会の記録といえるのでしょう。
今回の展覧会では、ありふれた景色を植田独自のアングル、そしてアプローチで撮影した写真を中心に構成し、植田にとっての「吹き抜ける風」とは何か、語らぬ被写体との対話とは何か、を紹介します。