『自然と人生』は、徳富蘆花が逗子に住んでいたときに、逗子や葉山の海辺を散策し、丘に登り海に出て、日々の明け暮れ、季節の移り変わりを、人々の生活と共にこまやかに記した随筆集の題名です。
この展覧会では、蘆花にタイトルを借り、明治時代から昭和初期にかけての、自然の見方、自然との付き合い方を数々のすぐれた絵画を通してたどり、私たちの自然を見る眼がどのように形成されてきたのかを考えます。
明治時代に入り、社会のあらゆる分野で近代化が始まり、人々の自然との付き合い方も、江戸時代までとは大きく変化していきます。展覧会は、第一章「『自然』の発見」、第二章「紀行と観光」、第三章「登山、避暑、保養」、第四章「自然と人生」で構成され、それぞれ、自然を描いた絵が山水画から風景画へとどう変わっていったか、名所絵に対する視点に取って代わり画家たちが自分自身の風景を選んで新たな視点で描くようになる変化、ヨーロッパから持ち込まれた登山や避暑などの新しい楽しみ方に従って自然と付き合う様子、自然のなかで生活する農村や漁村の人々に向けられる眼、それらを江戸時代の絵画を含めて幅広く紹介します。
とくに、葉山、鎌倉は軽井沢と共に明治20年代から別荘地として開けてきた所でもあり、湘南地方は東海道沿いに保養や療養の地が広がる一帯です。葉山館で開催する今回の展覧会は、こうした地域の特色を含めながら、そればかりでなくもっと広範囲での日本の近代化過程に見て取れる新たな自然観の成り立ちを、画家たちの眼差しを通して見ていこうというものです。時代の移り変わりにつれた大きな変遷と画家の個性による多彩な変化が、すぐれた絵、変わった絵、おもしろい絵、珍しい絵のうちに楽しめることができると考えています。
出品作は、池大雅、谷文晁や歌川広重など江戸時代の作から、高橋由一、浅井忠、黒田清輝、菱田春草、藤島武二、岸田劉生、速水御舟、安井曽太郎、村上華岳、須田国太郎など100余人の画家による、洋画、日本画、水彩、素描、版本、約190点を数えます。