ゆるやかに絵画を語り、考えるためのABCD。当館のコレクションをさまざまな視点から選びだし、絵画にまつわる表現の魅力やエッセンスを、約50点の作品によって見つめ直します。
武蔵野美術大学 美術館・図書館は、大学に属する美術館として教育・研究に資することをひとつの目的としながら、半世紀以上にわたり活動を続けてきました。そのなかで集められた作品群、とりわけ約440点からなる絵画コレクションは、教員や卒業生、その影響関係にある作家によるものが多くを占め、本学の教育の幅広い射程を示すかのように、多彩な様相を見せています。
タイトルにある「アベセデール」は仏語でABCD、入門書という意味を併せ持ちます。本展は、入門書として絵画の本質を広範に拾い上げることはかないませんが、AはAtelier(アトリエ)、BはBalance(均衡)、CはCouleur(色彩)など、絵画を語り、思考するためのいくつものキーワードによって、当館のコレクションを紹介するものです。本学の教育における関係性、時代や技法といった大きなくくりからは少しだけ離れて、ときに描かれた当初のコンテクストをいったん保留にしながらも、多様な視点のもとに作品を並置することは、あらためて個々の作品の姿を見つめ直すひとつのきっかけとなるでしょう。
あらかじめ定められたAからZの音素の連なりにその流れを委ねながら、作品と向き合うための視点、いわば思考の起点となるヴァリエーションを提示すること、それこそがこの展覧会の意図するところといえます。絵画を語るためのいくつもの糸口を探る試みが、コレクションの新たな魅力と、絵画の持つ豊かな世界を実感する機会となることに期待します。
また本展では、本学の前身である武蔵野美術学校の頃より長らく教員を務め、絵画教育に大きな功績を残した、三雲祥之助(1902-1982)の作品を多く紹介します。本企画を通して、新鮮な眼差しで彼の作品を見つめ、その魅力を再発見する場となれば幸いです。