公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第283回として、「海辺のプリズム横須賀幸正展」を開催いたします。
海のモチーフを独自の感性で表現している洋画家・横須賀幸正さんは、那珂湊の海のそばに生まれ暮らしてきました。少年のころから好きだった油彩画を独学で習得し市展や県展、コンクールに出品していました。しかし馬を描いていた30歳の時には落選が続き、三軌会で師と仰ぐ洋画家・陶山侃(すやまかん)(1931~1998)に「足元を見ろ」と諭されます。仕事の合間に時間をかけて遠出をしてどれだけモチーフを見て捉えられるのかと、見透かされ突きつけられた言葉でした。横須賀さんは改めて描くことの意味を考え、自分の居場所を見つめ直し、そして海に気づきます。
風景を描くのではなく、もっと日常に寄り添う視点から海を表現したいと横須賀さんは考え、波打ち際のアイテムにテーマを絞り、防波堤の腐食したコンクリートやガラスのブイ、小さな甲殻類などを配置して画面を構成しました。その後も三軌会を中心に発表を続け、さまざまなコンクールで入選、受賞を重ねています。
横須賀さんは画面全体に点描で多数の色を幾層にも重ねて下地を作り、そこにモチーフを描きこみます。やがて色彩の軽やかさと速乾性にひかれて油彩絵画からアクリル絵画に転向すると、エアブラシを用いてより速く制作できるようになりました。背景に広がる泡のハイライトを一つ一つ描き込み緻密に表現したり、絵具に砂を練りこんで描くことでコンクリートの質感を出すなど、アクリル絵具の特長を活かしています。
タイトルに多く用いられている「わだつみ」とは海を司る神霊、または海そのものです。横須賀さんは、声明を生み出しさまざまな生物を育んできた豊かな海のイメージを描き続けていきます。
今展は二つの会場を使い、第1会場ではコンクールなどで受賞した作品を中心に前後期あわせて15点を展示し、第2会場では三軌会展に出品した大型作品10点を展示いたします。
公益財団法人 常陽藝文センター