江戸時代、浮世絵の主な画題といえば美人と役者、そして名所。中でも人気の歌舞伎役者が描かれた役者絵は、いわゆるブロマイドの役割を果たし、庶民の間でもてはやされました。元禄期(1688-1704)以降、浮世絵において美人画と並ぶ一大ジャンルとなった役者絵ですが、当初は類型化された表現が用いられ、役者一人一人が描き分けられることはほとんどありませんでした。しかし、明和年間(1764-72)に勝川春章(1726-92)、一筆斎文調(生没年不詳)という二人の絵師が役者の面貌を「似顔」で描くことを始め、また春章の弟子・勝川春好(1743-1812)は「役者 大首絵」で役者絵の様式に新風をもたらしました。さらに、幕末の浮世絵界を席巻した歌川派の絵師たちは、似顔を基本としつつ理想的に美化された役者の姿を華やかに描き出し、多くの人々の心を掴みました。
本展では、当館所蔵の三代歌川豊国作品を中心に出陳し、皆さんもよくご存じの大名跡やおなじみの物語など、時代を越えて愛される歌舞伎の世界を分かりやすくご紹介します。