川内倫子は1972年に滋賀で生まれ、4才までは滋賀で、その後は大阪で育ちました。
川内の写真は柔らかい光をはらんだ独特の淡い色調を特徴とし、初期から一貫して、人間や動物、あらゆる生命がもつ神秘や輝き、儚さ、力強さを撮り続けています。
川内のまなざしは、身の回りの家族や植物、動物といった存在から、火山や氷河といった壮大な自然に対してまで等しく注がれています。
日常にある儚くささやかな対象と、長い時を経て形成される大地の営みとが、独自の感覚でつながり、同じ生命の輝きを放っているところに、川内の作品世界の大きな魅力があるといえます。
タイトルにもなっている〈M/E〉は、本展のメインとなる2019年以降に撮影された新作のシリーズです。
〈M/E〉とは、「母(Mother)」、「地球(Earth)」の頭文字であり、続けて読むと「母なる大地(Mother Earth)」、そして「私(Me)」でもあります。アイスランドや北海道で撮影した火山や流氷と、コロナ禍で撮影された日常の風景とは、一見するとかけ離れた無関係のものに思えますが、どちらもわたしたちの住む地球の上でおこっており、川内の写真はそこにある繋がりを意識させます。
本展は、人間の営みや自然との関係についてあらためて問い直す機会となることでしょう。
川内は、写真集『うたたね』『花火』(リトルモア、2001)の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞して以降、今日まで精力的に写真集の刊行や個展の開催を行ってきました。
本展は、国内では6年ぶりとなる、そして故郷である滋賀でははじめての大規模個展です。
この10年の活動に焦点を当て、未発表作品を織り交ぜながら川内の作品の本質に迫ります。