荒廃した戦後の「タブラ・ラサ(白紙)」ともいえる状況から、フランス人作家、イヴ・クラインは新しい人間性を探求する作家として、彗星のごとく登場しました。その時代、イタリアでは空間主義運動、日本では具体などが展開されていました。本展は、イヴ・クラインを中心に、こうした同時代作家、さらに現代の作家を加えて、彼らの芸術に共通する「非物質性」というテーマを浮かび上がらせます。クラインは、アクションやパフォーマンスを通して、青に代表される色や火、水、空気などを用いることで芸術を物質としてみせるのではなく、「感性」を通してふれられるようにしました。精神の自由や宇宙的な想像力にみるものを誘うその表現は、同時代のみならず、ポストインターネット世代を含む現代の作家たちにも大きな影響を与えています。私たちは、現在、気候変動やウイルス、インターネット情報環境が生み出す混乱など、無数の「見えないもの」に影響を受け、実体が見えない不確かさ、不安の中にいます。イヴ・クラインほか本展の芸術家たちの革新的な試みは、いま、ここにないものを感じ、想像し、不確かな現在を乗り越えていく喜びと力を私たちに与えてくれることでしょう。