3.11以後の自分を問う
土門拳賞受賞のことば
「UNTITLED RECORDS」は、あまり大声にならないよう自分の足元で展開してきたシリーズだったので、受賞の知らせをいただいた時には少し驚いた。
東日本大震災以降とくに、見慣れた風景が翌日には全く別のものに変わってしまうという経験を、私たちは何度も繰り返してきた。自分が属している社会の諸矛盾が、噴出露呈するのを見てきた。私には、東日本大震災からオリンピックそしてパンデミックへと至ったこの10年が、1923年の関東大震災から日中戦争、幻のオリンピックを経て太平洋戦争に至る時代と重複し、極東の軍事的緊張やウクライナ侵攻などは言うまでもなく、より危機的な時代に進んでいるように見える。
このシリーズには、そうした時代において、ある写真家の個人的な活動を善かれあしかれ丸ごと書籍化し、向後へ送信できればという企図があった。しかし今現在、「震災以後の時間をお前はどう過ごしたのか」じつは「すでに取り返しのつかない10年を過ごしてしまったのではないか」という焦りのようなものをより強く感じている。もちろん、こうした感覚をお持ちの方は私だけではないはずだ。しかし、これは希望か?
この度「UNTITLED RECORDS」に土門拳賞を授与してくださった選考委員の方々に、心より感謝申し上げます。
(「毎日新聞」2022年3月21日号より抜粋)
土門拳賞とは
リアリズム写真を確立した巨匠・土門拳の業績をたたえ、1981年に毎日新聞社が設立。その年に作品(写真集、展覧会など)を発表し、優れた成果をあげた写真家が対象となり、受賞作品は土門拳記念館にパーマネントコレクションされます。
北島敬三氏は、全20巻からなる連続写真集『UNTITLED RECORDS』によって今回の土門拳賞を受賞。1999年から現在に至るまでの写真320点を収めたこのシリーズでは、北海道から沖縄まで足を運び、東日本大震災の被災地を含む日本各地の“遺棄されたように見える” 風景を撮影。一貫した視点と姿勢で撮影・選択されていることが見えてくる写真からは、日本中が被災地であるかのような錯覚すら覚えさせられます。21世紀の日本列島を急速に浸潤してゆく、日本の風景の解体する様を提示し続ける姿勢が高く評価され、今回の受賞に至りました。