「壁」は、私たちが日々暮らしてゆく中で、あらゆるところに突如出現します。自分が思ったように物事が進まないとき、なかなか相手の話が理解できないとき、今まで見聞きしたことがないものと出くわしてどうしたらよいかわからないときなど、私たちは日常生活で、ささいではあっても様々な種類の困難さ、いわば「壁」に突き当たり、それをどう乗り越えるかに心をくだきます。ただ、精いっぱいになるあまり「壁」そのものが思っているほど固くも高くもないことに気づかない場合があります。
その「壁」は、往々にしてすでに自分が知っている基準、物差しをもとに生まれることが多いでしょうが、美術はときに、そうした越えがたく見える「壁」、二つのものを否応なく分けているかに見える線引きが、実は自分の見方次第で自由に変形・移動できること、「壁」にはこちらとあちらを行き来できる〈あな〉すら無数に空いていることを実感させてくれます。
館蔵品を中心に構成した本展が、既存の「壁」を通過し、それを自分の思うように変えられると感じ取れる機会になることを期待します。