オーストリア西端のフォアアールベルク州は、氷河に輝く山脈に抱かれた「永遠の庭園」と呼ばれる。大地に根ざしたシンプルなスローライフが息づく街ドルンビルンから、トーマス・ボーレのストーンウエア(陶器と磁器の中間の焼き物)が初めて日本に渡る。 岩をおおう苔、つららの溶けてゆくさま、水面に張る薄氷。みずみずしく多様な自然の造形や質感をモチーフにした作品群は、静かでいて壮大な宇宙やあふれる生命力を感じさせる。徹底した造形美と大胆な釉薬の表現との融合。つややかなその表面は、周囲の空気を取り込み自ら呼吸する生き物の肌のように視覚をうるおしてゆく。? トーマス・ボーレの技術と精度の高さは、陶芸の原点である中国においても伝統工芸の芸術家たちから賞賛され、その美を追求する姿勢に「雅士(みやびを司る者)」という賛辞が贈られている。今年7月には中国・上海での個展が開催される予定。 「素」の美しさに究極まで迫る作品群が、会場となる江戸時代の土蔵でアジアの「静」の呼吸と響き合う。