■中村清治君について 笠井 誠一
中村清治君は、亡くなった翌2012年の第5回「Salon de Colline ―追悼:故中村清治先生―」(名古屋画廊)を共にしたのが最後になってしまった。学生時代から美術界の激しい潮流の中、一貫した歩みを貫いていたが、西洋の古典絵画を拠り所に自信を得て仕事を進める様になったのは、漸く1970年に近い頃で、新人作家として画壇に登場し始めた時期と重なる。《モレー風景》は、晩年の作品である。彼の色彩の美しさに注目する人が多いのは納得出来るが、光や色彩の扱いに関する精緻な感覚と、しっかりと練り上げられた構成美を見逃してはならない様に思われる。自然や身辺の形や色だけでなく、音も含めた世界への温もりある対話が彼の作品の大きな支えになっている。そうした穏やかな感情と厳格な構成との均衡のとれた中村清治君の作品からは、優しい清登な音色が伝わって来る。(画家)