スクリーンの行方―小林明日香個展のために
20代の「現代日本画家」の初個展である。
小林明日香の描くものは富士山や花鳥風月でもないし、だからと言って都会のショーウインドーを眺めている女性を描く叙情的な絵でもない。他の作家のような派手なモティーフや器用な手法を弄するものではなく、作家は自分の周囲の世界に揺曳するものに感覚を開き、そのリアリティを掴んで離さない。
そこでは水面も含めスクリーンや歪んだ鏡面が頻出する。
つまり正像の立ち上がらない中で、その先にあるものを見詰めようとしているのだ。
今回は写真画像と描写面が組合い、また描写画像を複写しての再構成と、様々に切断、縫合し、複合化していく多様な鏡像の入り乱れの中で、更なる揺らぎが創出するのではないかと想像している。
日経日本画大賞出品作から、5m以上の新作、数mのドローイングなどの大作から、コラージュ作品までを、アートスペース全館を借りて展示する予定と聞く。
初個展にして、これほどの意欲的な展観もあまり聞かないのではあるまいか。
この試行的な作品群の中からは、今後の作品につながる因子が内包されているに違いない。
その点でも、今後のこの作家の10年先までのスタートがここに始まるに違いない。
広くこの未知の作家の抱え込んだものをご供覧いただければ幸いと、作家に代わって口上するものである。
美術批評 天野 一夫
「日々生活する中で見つけた一瞬の出来事や小さな発見は、私を非日常の世界へと連れていってくれる。
そしてそれらを作品に閉じ込めることが出来ればいつでも体感し思い出すことができる。私にとって作品は日々の記録のようでもある。」
― 小林明日香