20世紀を代表するフランスの画家ジョルジュ・ルオーは、深い信仰を基盤に、キリスト教をテーマに多くの作品を残し、偉大な宗教画家としても知られています。ルオーの作品でひときわ印象深いのは、画面いっぱいに正面向きに描かれた数々の人物像です。キリストに限らず、裁判官や道化師も聖人のように慈愛に満ちた表情で描かれ、我々に愛と希望を伝えます。
一方、イコンはギリシャ語の「エイコーン」(像)という言葉に由来し、主に東方正教会で用いられる礼拝用画像をさします。イコンは偶像ではなく、それを介してイエスやマリアなどの存在そのものを信仰の対象としました。そこに表されているものが地上の現実を越えた神の国、神の心であるがゆえにイコンは通常の絵画とは違う神秘性に満ちています。イコン作家に修道士が多いように、ルオーも厳格かつ純粋な制作態度で作品に向かいました。
本展では、絵画的な構図やテーマ、そしてその深い宗教性と強いメッセージ性からも多くの類似点が見られるイコンとルオーの作品の関係に焦点をあてるものです。中世からの伝統に忠実に描かれたイコンと、20世紀の西欧画家ルオーの作品を展示し、時代や国を越えて受け継がれる聖なる像、祈りの形を探ります。