日本画の伝統的画材である膠(にかわ)。絵具と支持体をつなぎとめるその素材は、多様な表現を生み出しながら、連綿と続く日本画の系譜を支えてきました。しかしながら、今日において日本古来の伝統的な製造技法による膠の生産は途絶えています。
本学共同研究「日本画の伝統素材『膠』に関する調査研究」では、膠づくりの歴史的、社会的背景を見つめ直すため、現地調査の旅を重ねてきました。動物の皮や骨、魚の鱗などから溶かし出された動物性タンパク質を原料とする膠には、とりわけ皮革素材を製造する際に余る屑皮や残滓(ざんし)が多く利用されています。膠づくりの道筋をたどるとき、そこには皮革産業を中心とした各地の動物資源利用のあり方、さらには動物の生命を糧とする狩猟の風習といった、ひとつの文化の源流が見えてきます。
旅の結びとなる本展では、館蔵の日本画作品を交えながら、現地調査のドキュメントや動物の皮といった実物資料をご紹介します。膠素材に潜む獣性や、表現を生み出す原質としての動物の本姿へとあらためて視線を向けることで、膠をめぐる文化の諸相をご覧いただきます。