革命を経た1920~30年代のソヴィエト(ロシア)では、新しい国づくりに燃える画家・詩人たちがこぞって絵本制作に携わり、未来を担う子どもたちに大きな夢を託していました。粗末な紙に刷られ、ホッチキスで止めただけの薄い小冊子ながら、目にも色鮮やかな挿絵、心躍るリズミカルな物語展開は人々を魅了しました。ロシア・アヴァンギャルドの成果を注ぎ込んだこれらのモダンな絵本は、国内のみならず、遠くパリやロンドンでも注目の的となり、20世紀の絵本の行方を決定づけることとなります。
日本でもこれらのロシア絵本に熱い視線を向けた人々がいました。芦屋に住む画家・吉原治良(1905-1972)は、親しい友人がモスクワの街で見出した数々の絵本に触発され、1932(昭和7)年に当時の日本では例をみない瀟洒な絵本《スイゾクカン》を発行します。同じ頃、東京でもロシア書籍の輸入が始まり、画家の柳瀬正夢(1900-1945)、デザイナーの原弘(1903-1986)ら先端的な若者がリアルタイムでロシア絵本を手にし、自らの制作の糧としました。
この展覧会では、吉原治良の遺したロシア絵本を中心に日本国内の貴重なコレクション約250冊を一堂に集め、忘れ去られていた幻の絵本たちに新たな光を投げかけます。大人と子どもがともに育んだ夢と希望の結晶であるそれらの絵本は、色褪せない不思議な魅力と豊かでみずみずしい世界を21世紀の私たちにも体験させてくれることでしょう。