明治17年に岡山に生まれた詩人画家・竹久夢二(1884-1934)。近代文化の一大変革期であった明治、大正を駆け抜けた彼の作品の数々は移り行く時代とともにあったといえます。文明開化で異国の文化がもたらされ、都市部を中心に人々の生活スタイルが大きく変化した時代、夢二は18歳で文化の発信地東京へと飛び出し、絵画や演劇、詩歌などの新しい流行を目の当たりにします。当初の夢二は詩人を志しますが、詩を絵で描いたことで自らの表現方法を確立させ成功を収めてゆきます。友人で画家、文筆家の有島生馬は夢二の没後、画業を振り返って次のように著しました。「センティメンタルな時代の感情や、風俗を夢二位よく後世に伝へ得る画人が他にあるであらうか。」
夢二が時代の変化を吸収し、自らの美的感覚で独自の表現に昇華させた美人画や夢二デザインの世界は、雑誌や木版画、楽譜の表紙など多方面で多くの人が触れる身近な芸術となりました。そして令和の今日でも大正ロマンを代表するマルチアーティストとして広く愛されるとともに、現代のデザインや作品にも影響を与えています。
本展では肉筆作品やデザイン、版画などの他、当時の流行を発信した雑誌「婦人グラフ」で夢二が担当した全表紙を一挙公開し、時代をとらえた表現にせまります。大正時代が注目される今、大正ロマンを体現していたともいえる夢二作品の数々をご覧ください。