日本の国土の多くは、山地や丘陵地で占められています。険しい地形は、その土地に住む人々や街道を行く旅人たちを苦しめるものであった一方、豊富な水源を生み出し、温泉や豊かな山の幸など、人々に恵みを与えてくれるものでもありました。また、信仰の対象として、富士山をはじめとした霊峰が全国各地で崇められました。日本の風景や風俗を描くにあたって、山は逃れることのできない画題と言えるでしょう。広重は特徴ある山容や四季折々に見せる山の表情を叙情性豊かに捉え、山の美しさや厳しさを描き出しています。
本展では、街道絵や名所絵に描き込まれた全国各地の名もない山から名山まで、多様な山を巡ります。また、新規収蔵となった広重最晩年の優品《山海見立相撲》4点を初公開します。初摺に近いと思われる当館所蔵品は、描かれた山の姿をより瑞々しく彩ります。広重の手によって表された山の風景をご堪能ください。