「ソシエテ・イルフ」は戦前の福岡で結成された前衛美術グループです。主なメンバーは、写真愛好家の高橋渡(1900-1944)、久野久(1903-1946)、許斐儀一郎(1896-1951)、田中善徳(1903-1963)、吉崎一人(1912-1984)と、のちにデザイナーとして知られる小池岩太郎(1913-1992)、画家の伊藤研之(1907-1978)の7名。写真愛好会や喫茶店の顔なじみだった彼らは、1930年代半ばに集結し、「古い」の逆さ読みから「ソシエテ・イルフ」を名乗るようになりました。
「イルフ」のメンバーは定期的に集まり、興味を持った美術展や芸術作品について意見を交わしながら写真・絵画・工芸の各分野で活動していました。とりわけ、福岡市近郊の海辺や街中で撮影した写真作品には前衛写真の技法や構図を駆使し、当時日本に紹介されていたシュルレアムリスムや抽象芸術への好奇心と、身の周りのものに造形の面白さを見出す視線をメンバー同士が共有していました。
1940年4月に発行した同人誌『irfl』の中で、彼らは「吾々自身の新しき世界を把握すべき」と述べ、「ソシエテ・イルフは前進する」と宣言します。社会に役立つ作品が求められるムードを受け、戦時下の美術家たちの表現の幅が制限される中、「イルフ」はあくまで表現における前衛を貫こうとしました。戦時体制が全面化するとともにグループとしての活動は終息しますが、彼らは何を目指して前進し、そして歩みを止めたのでしょうか。
「ソシエテ・イルフ」の約30年ぶりの回顧展となる本展では、当時の作品・資料とともにその活動を改めて検証します。