全国各地の神社仏閣には、まつられる神仏の由来や霊験を書き記した縁起が伝えられています。「縁起」と呼ばれるテキストは、しばしば現実と空想との境界があいまいで、架空の人物が活躍したり、史実をとびこえた荒唐無稽の物語である場合が多いのです。縁起に書き残された物語の世界から、近代以前の人々の思考様式や世界観をくみとることができます。
また神仏の霊験について記された書物も縁起に類する資料です。神仏が登場し、さまざまな奇跡をあらわした説話も、やがて縁起に組み込まれ、人々を信仰へと誘う素材とされました。寺社の建物や仏像をつくるとき、喜捨を募るためにも、こうした霊験が強調され、「勧進帳」の文章にも取り込まれています。
この展示では、金沢文庫の収蔵品の中から、各地の神社仏閣の由来や霊験を記した文献や絵図を選び、「縁起」の世界の一端をご紹介します。