佐野(安蘇郡)を含む両毛地域は、渡良瀬川および支流の恵みと水運で栄えました。万葉集に登場する「安蘇の河原(秋山川か)」をはじめ、阿曽沼や菊沢川などの佐野の水の情景が和歌・漢詩に詠まれてきました。本展では、水と共にある風景を描いた作品を、佐野ゆかりの文学作品と共にご紹介します。
また、当地の旧家・吉澤家に伝わった渡辺崋山《風竹図》を修復後初公開します。崋山は渡良瀬沿岸の足利の田畑の豊かさを羨むように記述し、天保飢僅後には吉澤松堂のために描いた《風竹図》に、「竹の葉音にさえ民の苦しみを想う」という内容の詩を書き添えました。明治期に吉澤家は、この画を刻んだ巨大な碑を建てましたが、その銘文を撰した地元文人・森鴎村は、足尾鉱毒が渡良瀬頼川流域に深刻な被害もたらす様子を漢詩「鉱毒歌」にうたい、住民救済に奔走した田中正造に深い共感を示しています。
佐野を含む広い地域は、昨秋台風による水の被害を受けました。災害からの復興を祈りつつ、この地が長い歴史の中で受けた水の「恵みと災い」を振り返ります。ふるさと・佐野の良さを改めて見直す機会となれば幸いです。