北の大地で、32年間という短い命を、土を耕すことと絵を描くことに捧げた1人の画家がいました。彼の残した作品は、いまなおその輝きを失わず、多くの人々の心をとらえています。
神田日勝は1937(昭和12)年、東京の練馬で生まれました。1945年、日勝が7歳のとき一家は拓北農兵隊(戦災者集団帰農計画)に加わり、北海道に渡ります。入植地の鹿追に着いたのは終戦の前日でした。国からの援助もほとんどない中での開拓生活は苦闘の連続だったと言います。そんな中で日勝は、後に東京藝術大学に進む兄の一明の影響で絵を描き始めます。
独学で、さまざまな影響を消化しながら自らのスタイルを模索する日勝は、道内の展覧会を中心に制作を続け、1964年には独立展に初入選、以降も連続して入選を果たします。農民としての暮らしと制作活動の狭間でもがきながら、身近な生活に題材をとり、一筆一筆に魂をこめて描かれた力強いその作品は、徐々に高い評価を受けるようになっていきます。
しかし、新たな境地に踏み出そうとしていた矢先の1970年、日勝は病気のため、32歳の若さで亡くなります。最後まで描き続けた馬の絵は、半身が未完成のままでした。
神田日勝の没後50年を記念する本展は、代表作を網羅して画家の全貌を伝えるとともに、最新の研究成果を盛り込み、彼が影響を受けた画家たちの作品も展示して、同時代の美術に敏感に反応していた、感受性豊かな日勝芸術の広がりを提示します。