石井鶴三は,明治20年東京都台東区に日本画家石井鼎湖の三男,兄は画家石井柏亭という家系に生まれ,油彩,水彩,版画なども制作した日本芸術院会員で院展の彫刻家です。その多才な鶴三が描いた吉川英治原作「宮本武蔵」の挿絵を中心にした展覧会を開催します。
吉川英治原作「宮本武蔵」は,昭和10年から14年にかけて朝日新聞紙上に連載され,それまでのような単なる剣豪物語ではなく,剣の求道者として武蔵を描き好評を博したものです。その新聞掲載原作の宮本武蔵「地・水・火・風の巻」前半部分の挿絵は矢野橋村が担当し,石井鶴三は,昭和13年1月より翌14年7月までの「空・二天・円明の巻」を描きました。それら鶴三の作品は,単独で昭和18年に朝日新聞社より「宮本武蔵挿絵集」として刊行され,続いて昭和29年「現代名作名画全集」(六興出版社)にも取り上げられるなど人気を得ました。その挿絵原画を中心に,三部で構成します。
第一部は,彫刻家石井鶴三の身辺と素顔を作品を通して紹介します。
第二部は,人間武蔵を簡潔でシャープな線と墨の持つ情感により,作中の場面と人物の心理とを見事に描き出した石井鶴三の挿絵原画(当館所蔵)を紹介します。
第三部は,「宮本武蔵」の原作者である吉川英治を中心に紹介し,石井鶴三と吉川英治が描いた人間武蔵を展望します。
ドラマや劇画でも取り上げられた武蔵は,往年のファンのみならず若者の心も捉え現在に至っています。そのような武蔵の原点を探りながら,それまでの物語に従属するという挿絵のイメージから脱却し,挿絵だけでも見応えのあるものにした鶴三挿絵の魅力に迫ります