洞窟画は人類最初のことばとして光の届かぬ地球の腸(はらわた)の中に存在する。
それは己の腸に描いたことに他ならなく、私の描く意味と同質である。
新約聖書に「はじめに、ことばがあった…。このことばの内に命があった。命は人間を照らす光であった。
光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。」と記されている。
本に空いた穴は光を理解しない者という意味も含む。
本は人類の叡智が詰った知の宝箱であったはずであるが、創造力を越えた破壊力を手に入れてしまった今、我々は何処へ向かおうとしているのだろう。
金子善明
人は絶えず生きた証を残そうとする。
金子善明にとっては「スペインの洞窟画」の体験が思想基盤をなす。
そこから文字が発明され繰り返される億年の日々がその根底に照射されると新しい相貌として立ち現われてくる。そうした書物は時を経て戦争、検閲、天災、劣化、無関心などに晒されてきた。金子はそうした書物の無数に整列された文字たちが、溶液によって溶かされ(解かされ)、ときには、不意打ちのように何者かに貫通され、分解される。
そしてギャラリー空間そのものが、大きなエネルギーとなって一つの作品となって語りかけてくる。
デジタル化がすすみ文字が内包し発酵する言葉となりえない危機感を私たちも共に抱き本展を時代に捧げたい。
島田 誠