水戸を拠点に活躍する久米みどり(1951-)は、46歳から作陶を開始するという遅咲きのキャリアを持ちながらも、いまや国内のみならず海外にも発表の場をひろげ、現代陶芸界に独自の位置を占める作家です。
久米の創作を導くのは、儚(はかな)さや危うさの中にもたしかに息づく「いのち」へのまなざしです。胚胎(はいたい)し、芽吹き、伸び、膨らみ、開き、弾け、枯れ、朽ちて、また再生する植物を思わせるオブジェは、目ではとらえられないほどゆっくり流れる時間の一瞬一瞬の記憶を切り取ったかのようです。これらは見る者に、作品の内側に力強く宿る生命の温もりやうごめきを感じさせることでしょう。
茨城県陶芸美術館は、代表作のひとつ≪墨色古代花≫(2011)に、2017年から2018年にかけて作家から寄贈された18点を加えた合計19点の久米みどりの作品を所蔵しています。本展覧会では、ゆったりと円弧を描き白い肌をもつ「記憶のか・け・ら」のバリエーション、同じような肌合いでレース細工のように脆い化石の花を表した「古代花」シリーズ、その発展形で花芯をクローズアップした「花の精」シリーズなどの収蔵作品が、初めて全点一堂に会します。あたかも変奏曲を奏でるかのごとく緩やかに繋がりつつ展開する、ゆたかな作品世界をご堪能ください。