京都在住の芳木麻里絵は、一貫してシルクスクリーン版画のインクを何層にも刷り重ねることで厚みをもった大小様々な平面、立体物を作りあげていく美術家です。芳木が好んで題材にしているものは緻密なレースのカーテンや布張りのソファなどをはじめ、チョコレートやボタンなどの食べ物や服に身につける小物といった身近な日常品です。版を重ねるごとに突起していくインクの凝固された層は、その表面を形づくる起伏や陰影、あるいは滑らかな独特の手触りを持ちあわせており、触覚性、視覚性をリアルに刺激してきて、喚起を促してくれるものです。美しく繊細なインクの色ごとの層が数ミリ、または数センチほどの立体的、半立体的にレイヤーのような膨らみを持っています。本展では、奈義町内にある多くの溜池に映る水面を題材にして、光をあてがうことで水面が反射して映りだす最新作を展示します。「版」がもっている可能性の提示はもとより、見る者をホンモノとフェイク、物質とのズレや差異についての視覚的、触覚的な問題提起を与えてくれるものです。芳木の県内初の本格的な個展になります。