今回展示する作品のうち《南嶋薄暮》は、昭和15(1940)年、神武天皇即位後二千六百年を記念して開催された「紀元二千六百年奉祝美術展」に出品されたものです。珍しいコブ牛、民族衣装に身を包んだ女達、群青色の空が神秘的なその絵は台湾で取材した作品です。その他、蓬春が東洋の各地で取材した作品や、疎開先の山形県赤湯町での素描を中心に作品の移り変わりを追いながら展示しています。2階座敷では、蓬春と鎌倉ゆかりの文化人たちをご紹介いたします。当時、葉山や鎌倉には、豊かな自然環境でありながら東京に近いという利便性から、多くの文化人が移り住んでいました。その中から、蓬春にゆかりの深い日本画家・鏑木清方や映画監督・小津安二郎、小説家・大佛次郎を取り上げます。特に、世界的にも知られ、今年で生誕100周年を迎える小津安二郎との関わりからは、蓬春の多岐にわたる交流の一端を窺うことができます。