2019年、横浜は開港から160年という節目の年を迎えました。2018年には、訪日外国人旅行者が3,000万人を超え、2020年には2回目となる東京オリンピック・パラリンピックが開催される中、幕末の開港時を彷彿させるように、日本は海外から熱い視線を集めています。
江戸時代末期の開港により、世界へと門戸を開いた日本へは、明治時代の幕開けとともに諸外国から多くの外国人が日本を訪れました。彼らは、自国とは異なる風土、文化を持つ日本に魅せられて、日本製の絵画、浮世絵、陶磁器、漆工品など、さまざまな品物を購入し、自国へと持ち帰ったのです。さらに、日本の美術工芸品は、欧米で盛んに開催された万国博覧会で披露され、高い評価を得るとともに、海外へと大量に輸出され、のちにフランスを中心に流行した「ジャポニスム」ブームの契機となりました。
それらの美術工芸品は、ただ美しいだけでなく、精緻な手仕事による職人芸を極めた、まさに「神業」、「超絶技巧」と呼ぶにふさわしい品々でした。これらは、日本人向けの品物というよりも、金彩や色絵技法を駆使した華やかな装飾、複雑な彫刻が施され、外国人好みを反映して製作されたものだったのです。しかし、輸出品がゆえ、日本国内には現物が残らず、時代とともにその存在や記憶も失われていきました。なかでも希少価値の高い、外国人向け陶磁器「横浜焼・東京焼」は、製作過程や実態に謎が多く、「幻の陶磁器」と呼ばれています。
本展では、国内随一のコレクター・田邊哲人氏が里帰りさせたコレクションから精選し、あわせて、明治時代の日本を代表する陶工・宮川香山の作品をはじめ、日本に現存する優品を一堂に会して、幻といわれるその全貌に迫ります。