富岡鉄斎(1836-1924)は、幕末・明治・大正の三代に生きたわが国最後の文人画家で、現代においても清新で、国際的にも高く評価されるなど、近代日本美術史上傑出した存在です。
京都の法衣商を営む富岡維叙の次男として生まれた鉄斎は、幼少の頃より国学や儒学、仏教等を学び、19歳のころから絵を習いはじめ、詩文も嗜みました。幕末は勤皇学者として国事に奔走、明治維新後は神官であった一時期を除き、在野の文人として活躍。大正13年89歳で亡くなるまで数多くの作品を描き続け、生涯に制作した作品は1万点以上にのぼると言われています。
鉄斎は自らを終生、画家ではなく学者であると自負し、文人の理想である「万巻の書を読み、万里の路を行く」を実践、全国を歴遊し、その知見を広めていきました。また「わしは意味のないものは描いていない」というように、さまざまな流派を積極的に吸収し、それらに裏づけられた作品には天真欄漫で豊かな知性と感性を見ることができます。鉄斎芸術が多くの人に共感を与える最大の魅力は、その自由奔放さにあり、50歳を過ぎてからも画風を豊かに展開させ、晩年に向かいますます冴えわたり、融通無碍の画境へと到達しました。
本展覧会では、新見美術館開館30周年を記念し、当館設立の動機にもなった新見市出身の篤志家・横内正弘氏(故人)からの寄贈を受けた鉄斎作品をはじめ、開館後購入や寄贈により充実した鉄斎コレクションの全てを紹介します。