画家を目指す者にとっては、先達の技法を学び取る模写は必須の修行のひとつでしたが、芸術における独創性が強調される近年では真摯に模写を繰り返す画学生は減ってきました。
昨年に敦煌莫高窟壁画と法隆寺金堂壁画の摸写を展示公開して好評をいただいた当館では、本年は西洋古典絵画を模写した作品展を企画しました。
絵画芸術は色材、色材の媒体(展色剤)、それを塗る支持体の三つの要素によって成立しますが、今日では西洋絵画といえば油などを用いて顔料を麻布(キャンバス)に塗る技法が広く知られています。しかしこの油彩画は16世紀以降に発展した技法で、それ以前は顔料を、卵を用いて木板に塗るテンペラ技法が主流でした。我が国では一般にはあまり知られていない技法ですが、今回はこのテンペラ画を多く展示して、油彩画よりも明るい色彩の魅力と絵画技法の多様性を紹介いたします。