曽宮一念は各地を旅して日本の自然美を描いた洋画家です。大胆かつ緻密に練り上げられた構図の中に、夕日や雲がもたらす自然の情趣を巧みに取り入れ、鮮やかな色彩と奔放な筆遣いによる躍動的な風景画を描きました。緑内障のため1971年に失明し惜しまれながら絵筆を置いた後は、1994年に101歳で他界するまで短歌や随筆など文筆活動に専念したことでも知られています。
1893年に東京日本橋に生まれた曽宮は、少年期から水彩画に親しみ、1911年に東京美術学校西洋画科に入学。在学中は藤島武二から薫陶を受け、画家の登竜門とされた光風会展、文展に入選。青年期に同時代の気鋭の洋画家・中村彝(つね)や佐伯祐三と親交を結びました。卒業後は、1925年に第12回二科展で樗牛賞を受賞し、二科会、独立美術協会、国画会を中心に活動しました。
戦後、静岡を拠点にモチーフとなる風景を全国に求めた曽宮は、1949年に初めて鹿児島を訪れた際、桜島の溶岩や噴煙の自由な形に魅せられ、以後十数年にわたり毎年のように鹿児島へスケッチ旅行に訪れました。「桜島渡航百回」を自称するほど熱心であった取材の成果は多数の桜島作品へと結実し、文筆業においても1958年に随筆『海辺の熔岩』で日本エッセイストクラブ賞を受賞しました。表情豊かな桜島は、曽宮の後半生における重要なモチーフの一つであったと言えます。
本展では、曽宮と鹿児島との関わりを中心に初期から晩年までの業績を、油彩、水彩・素描、書、陶板など100点を超える作品・資料を通じてご紹介します。風景と向き合った画家の真摯なまなざしと色あせぬ色彩、失明後も精力的な活動を続けた人間的魅力をご堪能ください。