山沢栄子は1899年大阪に生まれ,1920年代のアメリカで写真を学び,1930年代から半世紀以上にわたり,日本における女性写真家の草分けとして活躍しました。当初はポートレートの撮影を主な仕事としていましたが,晩年の1980年代には抽象絵画のような写真作品を制作する芸術家として知られていました。とりわけカラー写真による色鮮やかな作品群は,当時の日本では他に例を見ないものでした。「私の現代/What I am doing」と題して発表されたこのシリーズには,自身の過去の作品や写真機材を写し込んだ,きわめてコンセプチュアルな表現も含まれています。山沢は,1950年代から写真による造形の実験を重ねることで,このような独自の芸術表現に到達しました。
生誕120年を記念した本展では,1970-80年代に手がけたカラーとモノクロによる抽象写真シリーズ〈What I am doing〉を中心に,抽象表現の原点を示す1960年代の写真集,戦前の活動を伝えるポートレートや関連資料など約140点を展示し,日本写真の流れとは異なる地平で創作を続けた芸術家の歩みを辿ります。