池田良二(1947年生まれ)は1970年代半ばより銅版画を手掛けてきました。フォトエッチングの技法を主軸に、さまざまな技法を組み合わせた作品は、モノトーンの色調からなる闇に近い空間のなかに、時間の層が幾重にも織り込まれているようです。そこには描かれていない人の気配も感じさせ、不在や痕跡といった言葉が脳裏に浮かんできます。
一方、彫刻作品を発表してきた海老塚耕一(1951年生まれ)が、本格的に銅版画に取り組んだのは、1990年代の末でした。素材と対話し、境界や端について考えることを起点に制作してきた海老塚は、銅版にも同じ態度で臨んでいます。それは、銅板に刻み込んだ図が反転する銅版画を、表と裏の境界を跨ぐ表現として強く意識しているからです。
同じ銅版画というジャンルで制作をしていますが、二人が目指すところや刷り出された表現は大きく違っています。しかし、二人とも、銅板という素材をどのように銅版というメディアへと変貌させるかという問いの前に立っているといえるでしょう。二人が銅版に向き合い、そして作品に込めた、それぞれの思考の姿をぜひご覧ください。