日本現代美術の開拓者、斎藤義重氏は、1904(明治37)年東京に生まれました。大正期にヨーロッパの前衛美術に注目し、昭和初期にはすでに前衛芸術家として活動を開始しています。しかし当時、絵画とも彫刻とも判別できない氏の前衛的作品は、世間に理解されませんでした。その後、戦争、貧困、病魔が氏の制作活動に長い沈滞を余儀なくします。1957年53歳の時、奇跡の復活といわれた作品「鬼」の発表で、日本国際美術展K氏賞を受賞。続く60年代には絵筆を捨て、板の表面にドリルで傷をつけるように描かれた「作品」シリーズが生まれ、既成の絵画のあり方に疑問を投げかけた作品を制作します。そうした氏の抽象作品は、ヴェネツィア・ビエンナーレなど数々の国際展で発表され、国内外で高い評価を得ます。そして1970年代末から、氏の表現はより大きな空間を意識した、立体的作品へと展開し、黒一色の板を構成して空間に配置する「複合体」のシリーズへと昇華していきます。以後、2001年97歳で没するまで、その制作活動が絶えることはありませんでした。
本展は斎藤義重氏の生前に企画されたものであり、氏の遺志を受け継いで展覧会を構成しております。現存する最初期から最後の作品まで約100余点を展示構成し、その造形の歩みを辿ります。