戦前、戦後をとおして活躍した洋画家・向井潤吉(1901-1995)は、1945年以降、日本各地を訪ね歩き、失われゆく草葺屋根の民家を描くことにその後半生を捧げました。
世界遺産となった白川郷の「合掌造り」や、雪深い地方の特徴的な屋根をもつ「兜造り」、母屋と馬屋がL字の形をかたちづくる「曲がり家」など、約40年間におよぶ旅の中で、向井は各地の特徴的な民家の数々を描きました。
向井潤吉の作品には、こうした民家の造形美が、周囲の自然と一体感をもって表現されています。また、そこで暮らす人々の息づかいをも感じ取ることができます。
「民家はその生まれた土地を動かずに、生活や自然環境と密着してこそ初めて美しい」(「よみがえる民家」『東京新聞』1973年3月28日)と語った向井は、民家のある風景をとおして風土の美を感じとり、描きあらわそうとしたといえるでしょう。
本展では、向井潤吉の民家シリーズを中心に、油彩、水彩作品をあわせて約40点ご紹介します。旅する画家が追い求めた、風土のかたちの数々をお楽しみください。