絹谷幸二は、東京芸術大学油画科在学中にアフレスコ古典画の技法と出会いました。そして、法隆寺金堂の壁画から深い感銘を受け、大学院では壁画科に進みます。その後イタリアへ留学し、古典・現代のアフレスコの研究に取り組みました。この漆喰をベースとした堅牢な画面は、故郷奈良での原風景とも結びつき、地域、時間を横断する独創的な世界が生まれました。さまざまな事象を取り込んだ現代的で色彩あふれる作品を次々と発表、また、美術の枠もこえた様々な場で活躍し、2001年には日本芸術院会員に推挙されました。
徹底して古典に学ぶことで身に付けた確かな技、研ぎ澄まされた色彩感覚、因習に囚われない思い切った手法など、絹谷幸二の特質を語る言葉はいくつもあります。しかし、この画家の最大の面目は、世界を見はるかす文明史的なまなざしの雄大さにあるのではないでしょうか。
歴史の転換期ともいえる今日、どのようなメッセージを発信し、未来へ託そうとしているのか-。本展ではこの点に焦点をあて、イタリア留学時代から最新作までの絵画に立体、素描を加えた96点で、絹谷幸二の世界をご紹介します。