暑い夏を少しでも快適に過ごすため、人々は海美水浴や夕涼みをしたり、冷たいかき氷を食べたりと様々なものに涼をもとめて来ました。このような物理的な涼しさだけでなく、怪談など肝を冷やす「怖いもの」も、古くから夏の風物詩の一つでしょう。本展では、この「コワイ」をキーワードに、様々なジャンルの館蔵作品をご覧いただきます。
刀剣は身を守り、敵を斃すための武器であり、その斬れ味は持ち主の命運を左右する重要なものでした。江戸時代になると試し斬りが盛んに行われ、刀剣にはその結果が銘として刻まれます。また、こうした試し斬りをもとにして、時代や流派、刀工の知名度によらない斬れ味本位のランク付けが行われました。金象嵌で試し切りの結果を茎に記した「脇指上総守兼重」などは、よさに武器としての「コワイ」一面をあらわしています。『平家物語絵巻』は、美しい絵と流麗な詞書で有名な作品ですが、戦にまつわる「コワイ」場面と共に、目的のためには手段を選ばない人間の「コワイ」性をも描いています。また河鍋暁斎筆「閻魔·奪衣婆図」など死後の世界を描いた作品共に、正阿弥勝義作「菊花·虫図皿」や逸見東洋作「風神雷神図堆朱盆」など「コワイ」ほどの超絶技巧を駆使した作品も展示いたします。
また岡山後楽園·野﨑家塩業歴史館と連携し、岡山後楽園能舞台復元60周年記念事業協力展示PartⅡとして、『平家物語』に由来する能の演目「藤戸」に用いられる、能面「廿余」などの池田家伝来の能面や能束もご覧いただきます。
こうした展示品を通じて、人間の業や日本人の死生観をご覧いただきますと共に、暑さをしのぐひと時を美術館でお過ごし下さい。