黒野清宇と「かな」
2017年7月に逝去した日本のかな書を代表する黒野清宇(1930~2017)の遺墨展を、彼の主宰した《玄之会》の協力のもと、開催いたします。
黒野清宇(本名・貞夫)は豊田市に生まれ、若い頃より書家を志し、愛知学芸大学(現・愛知教育大学)在学中に《かな》に惹かれ、古筆の臨書、倣書に励みました。大会場での展覧会が行われるようになると、壁面芸術としての書が求められ、師・宮本竹逕らと一緒に《大字かな書》運動に加わり、優美で典雅なかな文字のみではない、《かな》の新たな可能性を求めていきます。そして黒野は中国の書論のみならず日本の書論から《かな》の真髄と書法を研究し、更には現代的な意義を確立し、かな書ならではの文字と文字のつながり、流麗で柔らかな線、墨の濃淡の妙等、独自の書の境地を切り拓いたのです。
日展・日本書芸院展を中心に活躍し、愛知県芸術文化選奨文化賞、日展文部科学大臣賞等、受賞を重ね、第61回日本芸術院賞を受賞しました。同時に母校・愛知教育大学の教授として後進の育成、かな書の普及発展に大きな功績を残しました。
書に生きたその軌跡をたどる
本展では、晩年、黒野が特に熱心に研究した万葉集の「貧窮問答歌」を中心に、彼の書の原点ともいえる平安時代の散らし書きの伝統を汲んだ優美で繊細な書、また若いころの柔和で美しいかなの帖、よみやすい現代的な放ち書きで日々の想いを綴った書、さらに蒐集・愛用した文房四宝なども展示し、さまざまな黒野清宇の世界を展覧いたします。また、分館爲三郎記念館では黒野の作品と共に、玄之会会員の作品も展示し、黒野につづく門下の作品も併せて紹介します。かなの美、書に生きた黒野清宇の軌跡をお楽しみください。