ハンナ・ヘーヒ(1889-1978)は、20世紀のドイツ美術を代表する女性画家です。ベルリン・ダダを牽引したリヒャルト・ヒュルゼンベック、ラウール・ハウスマン、ハートフィールド兄弟、ジョージ・グロスに混じりダダの運動に参加、ワイマール黄金時代の一端を担いました。ヒトラーの台頭以後は沈黙を余儀なくされベルリン郊外に留まりますが、第二次世界大戦が終わりを告げた翌年の1946年にはベルリンのローゼン画廊が主催した「夢想芸術家展」に出品、同じ年の冬にはフォト・モンタージュによる個展を同画廊で開催し、混乱した社会のなかでいち早く再登場しました。
油彩、水彩等も手がけましたが、斬新なコラージュが何と言ってもヘーヒ作品の醍醐味です。時事的なテーマから出発し、一貫したコラージュの手法を守りながらもテーマ、技法においては多様多彩な展開をみせ、後期には深い人間性を感じる作品を作るようになりました。
本展では、1920年前後から1960年代後半までの活動をほぼ網羅するコラージュ作品34点余を紹介します。女性作家を取り巻く当時の厳しい状況のなか、ダダをはじめとしバウハウスやデ・スティルなどの前衛的な芸術家とも親交をもち、変動著しい社会状況にも動じることなくゆるぎない制作活動を続けたヘーヒ。その活動を今日改めて振り返ると極めて重要な作家であったと再認識するでしょう。日本でのまとまった展覧は、1974年に京都で初めて回顧展が開催されて以来、約30年ぶりになります。斬新で、独創性にあふれたヘーヒ作品をご堪能ください。